まっくに覚えて貰ったこと
 常にリードを離さず危険を回避する、危険な目に絶対遭わせない。これはどんな犬でも同じに守らなければならないことです。しかし、私がそれまでに飼っていた犬はいつもノーリードでした。実家のある新宿区は車通りも人通りも半端じゃなく多い場所です。新宿と聞けば、その地に来たことのない方でも容易にその状況は想像できるでしょう。こんな場所でもまったくのノーリードで、しかも私は自転車に乗って、歩道が混んでいれば車道を走る・・でも犬は常に私の横や後ろを一緒に走っていました。それが当然だと思っていました。今ではそんな恐ろしいことはとても出来ません(笑)
 そんな犬との生活が下地にあった私は、散歩中にはぐれても、まっく一人で歩いても事故に遭わないように・・・とわけのわからないことを考えたわけです。家のあるブロックを一周する間5メートルおきにマーキングさせて、家の周りならどこでも自分のにおいを見つけられるようにしました。そして、ブティックだったり雑貨屋だったり犬が入れそうなお店にはすべて立ち寄り、店員さんにも顔を覚えて貰いました。確かに効果はあって、どっちの方面に出かけて帰ってきても、家の100メートル圏内にはいると、まっくはぐいぐい引っ張って家まで帰っていました。いつも寄り道するところには、必ず自分から寄り道していました。
 

 でも、これはあまり必要ではありませんでした(^_^;)
だから、新しい家に引っ越してからはやっていません。

  いつも犬を守る・・・これは当然のことなのですが、ちょっとした隙にリードが手から離れてしまったり、どうしても手があかなくて自分で歩いて貰わなければならない状況(たとえば大震災などで大荷物持って逃げるときや、私が手を怪我して抱けない状況)などを考えて、ある程度コマンドで動かせるようにしようと思いました。

 
 あなたの犬が視覚を失ったら・・・
あなたはそれまでの10倍、犬に声をかけてください。犬がそれを理解しても理解しなくても、声をかけ続けてください。犬は一生懸命理解しようと努めます。なぜなら、あなたの言葉は犬とあなたをつなぐ大切な絆だから・・・。
 
★落ちる!
 まっくが私の手を離れているときに一番怖かったのは落下してしまうということです。足下の地面がなくなっていることが落ちてみなければわからない。そして落下は大きな怪我を招く可能性が非常に高い。そこで、「落ちる!」のコマンドを覚えて貰いました。通常の遊びのコマンドとは違います。生きるか死ぬかというところでのコマンドです。私は体で覚えて貰うしかないと思いました。「落ちる!」と言われたらその先にはとてつもなく痛いことが待っている。かわいそうですがこの先十数年のうちにはこれが必ず役に立つ日が来ると信じて心を鬼にして特訓しました。私は普通使う犬のコマンドは言いやすくて聞きやすければ何でもかまわないと思っています。ですが、このコマンドだけは、「落ちる!」に拘りました。なぜなら、もしこの言葉を発するのが私じゃないときでも、確実にまっくにわかって貰うためです。私よりも先にまっくが落ちそうなのを見た人は条件反射で「落ちる!」と叫ぶでしょう。まっくを知らない人でも、誰にでも言って貰える言葉であれば、それだけ危険回避の確率は高くなります。

 痛くなくては覚えてくれませんから、50センチほどの段差のある道路で教えました。これを真似するかどうかは、飼い主さんがよく考えて決めてください。下手をすれば怪我をします。まっくはまだ1歳ちょっとだったこともあり、体も柔らかかったので偶然大けがをしないで済んだだけかもしれません。本当によく考えてください。
 この練習は「おいで」が出来ることが前提です。段差の上にまっくを座らせマテをかけて私は段差の下に行きます。とても楽しそうにまっくを呼び、段差の少し手前までまっくがやってきたときに「落ちる!」と叫びます。最初は何のことだかわかりませんから、そのまま宙を足をこぎながら落ちます。これを場所を移動しながら1日に3回、少し日を置いてからまた3回、と言う感じで合計で10回くらい行いました。3回目にはいいかげん「来いと言われたからってだまされるもんか!」と「落ちる!」のコマンドで止まってみせるので、その時は思い切り褒めてご褒美にジャーキーを1枚奮発しました。
 
 私はこれをやる場所は、まっくの比較的慣れている場所で行いました。理由は、イヤなことがあった場所というものを作りたくなかったからです。イヤなことがあった場所=外に行きたくない・・・そうなると困ります。まっくには外も楽しいところだと思い続けて欲しかった。だから練習をした翌日はその場所で楽しいことをします。イヤなことを忘れた頃にまた練習。でもまたその次の日には楽しいこと。おかげさまで、まっくは「落ちる!」のコマンドで完全フリーズします。そして今でも外で遊ぶことが大好きです。
 
★ぶつかる!
 何かに衝突(激突)することも、痛いことだと覚えて貰いました。これも「落ちる!」と同じ理由で、通常、人が口にする言葉を選びました。「落ちる!」よりはソフトな練習方法ですが、これもやはり体で覚えて貰いました。
 広い芝生の公園でまっくを思い切り走らせます。そして急に私はまっくの正面に回り込み「ぶつかる」と叫びながら正面衝突します。全速力で走っているまっくは何度もこれで「きゃいん!」と泣きました。半分虐待だな・・・そう思ったことも何度もあります。でも、私にはこの方法しか思いつかなかった。
 辛い練習だったけど、これさえ覚えて貰えれば、これから起こりうる危険な場面のほとんどを回避できます。まっくもよくついてきてくれました。これらは半月ほどの間に覚えてくれました。ここから先は、より楽しく快適に過ごすための練習になっていきます。
 
★ダン  階段に使うコマンド

 まっくはダンダンダンというコマンドで上手に階段を上り下りします。階段の登り口、下り口で「ダン!」と声をかけると、階段を探します。

 長い鼻を突きだして、そこに壁があれば登り口です。足を上に上げて軽快に登ります。登り始めたら階段が終わるまで「ダンダンダン」と声をかけ続けます。長い階段だと途中で息が切れて、私が呼吸している間に、まっくは階段が終わったと思って鼻をぶつけたこともありました。

 最初の「ダン!」で鼻が壁に当たらなければ下り口です。今度はそこから鼻をしたに向けて段差を図ります。ここで鼻がつかなければ、リードを強く引かない限りまっくは下りません。「だっこして下ろしてくれ〜」と待っています。鼻がつく高さならば迷わず下ります。登りと同じように「ダンダンダン」と声をかけている間は同じリズムで下ります。

 これを教えるには、ひたすら階段に出くわす度に声をかけました。最初はアップとダン(ダウン)だったのですが、アップはイスに乗ることとコマンドが重なっていたため、どうもわかりづらかったようであることと、私自身が登りと下りのコマンドをかけまちがえるということが重なり、一つにしてしまいました。

 長い間に階段がどういうものであるか理解してくれたようで、最近は最初の「ダン!」だけ言えば、その速度はゆっくりですが、自分で高さを測りながら一人でも登ったり下りたりします。

 おもしろいことに、土手にある階段などの場合、周囲がよく刈り込まれた芝生だと芝生のところを歩いてくるのですが、ちょっと伸びている草(せいぜい10センチでも)だと階段を選んで下りてくるのです。まっくにとって階段は恐怖ではないことを知りました。
★ダッシュゴーゴー  思い切り走れのコマンド
 犬ならば思い切り走らせたい。これは飼い主ならば誰でも思うことです。ところが目の見えない子の多くは怖くて走ることが出来ません。まっくの場合は本当に小さな頃はいくらか見えていたのでしょう。けっこう全速力で走っていました。この時点ではもしかしたら明暗くらいはわかっているかも・・・と言われていたので、まっくからこの走ることを奪いたくないと思った私は、走っていい時を教えることにしました。
 広い広い野原の上だけは走っても良い。まっくにハーネスとリードをつけて「ダッシュ、ゴーゴー」と言いながら、引っ張って走り回りました。もともと走ることが好きなまっくだったので、すぐにこれは大好きなコマンドになりました。
 芝生のはじまで行くと「マテ」と言います。「マテ」はご飯の前などの練習で、すでにわかっているので、そこで止まります。方向を変えてまた「ダッシュゴーゴー」です。これを繰り返すうちに、まっくは芝生がなくなると(これはおそらく足裏の感触でわかるのだと思います)そこでスピードを緩め、方向を変えて、また芝生になると走り始めるようになりました。芝生の上は安全だから走っても大丈夫だよ・・・ただこれだけを教えたかったのですが、まっくは私の期待を嬉しく裏切って、芝生以外は走っちゃダメと、教えるつもりだったこと以上のことを学習してくれました。
 これは必要ないと言えば必要ないかもしれませんが、今も公園で楽しく走るまっくを見ると、教えておいて良かったなと思っています。